土に汚れたスパイクと
6月の最終日、再びこの場所に来てしまった。そう、富士の麓の貸し切り競技場。
練習開始後、富士山が雲に隠れ始めると、間もなく雨が降ってきた。
しかし、次月に試合を控えた息子とオトウチャン。悪天候は気にしない。
誰もいない競技場、自由に走れるだけで、親子には十分な時間であることに変わりはない。
雨の中を走り終えて、タオルで顔を拭いながら、まるでスプラッシュマウンテンに乗ってきた直後のような表情で、超気持ちい~とか言っていた息子。
そんな彼に応えるかのように、1時間程で雨が上がり、青空と富士山が再び顔を出した。
さて、跳ぶぞ。
雨で湿った砂場。跳び込めば、普段より砂まみれになることは明らか。
時折、砂場の先に、洗濯機の前で小言を連発するオカアチャンの幻想が見え隠れする。
シャツやスパイクの汚れを気にする息子。やはり見えない何かと戦っている。
やってみせ… オトウチャンは動く。
強い人は状況に左右されない…とか言いながら、最初の1本に覚悟と時間が必要だったことは確か。父も臆病なのだ。
練習を重ねる度に、記録を伸ばしていく子供たちに反して、R40は… 思い描く姿には程遠い。
でも、土に汚れたスパイクと、汗と雨で砂まみれになった身体と、富士吉田のうどんのコシに嘘がないことを、オトウチャンは知っている。
帰宅後、汚れたスパイクと体の砂を洗い流しながら、二人で反省会。
父「調子いいね、今日は何が良かった?」
息子「うどん屋さん」
またスパイクが汚れるまで頑張ろう。
(終わり)